西川和久の不定期コラム

Ryzen AI Max+ PRO 395×メモリ128GBの衝撃。ノートPCの限界が変わる「HP ZBook Ultra G1a 14 inch」

 3月にRyzen AI 9 HX 370を搭載したミニPCを2台ご紹介したが、今回はさらに上のSKU、Ryzen AI Max+ PRO 395とメモリ128GBを搭載したノートPC「HP ZBook Ultra G1a 14 inch」をご紹介したい。筆者的にも興味のあるプロセッサなので、ワクワクしながらの試用記となる。

Ryzen AI Max+ PRO 395とメモリ128GBのパワフルな14型ノートPC

 Ryzen AI 9 HX 370搭載のミニPCを試用した頃から、さらに上のSKU、Ryzen AI Max+ PRO 395の存在自体は知っていた(当時は未出荷)。高い性能に加え、メモリを最大128GB搭載可能……と、LLMや生成AI画像(動画)も行けそうと期待していたプロセッサだ。

 いつも通りミニPCで届くと思ってたところ、想定外のノートPC!(笑)。128GBモデルだと、価格は筆者所有の「MacBook Pro 14」(M4 Max 128GB)といい勝負。違いも気になるところ。

 メモリ容量は構成の違いにより16GB/32GB/64GB/128GBとある中、手元に届いたのは上記の通り128GBモデル。主な仕様は以下の通り。

HP「ZBook Ultra G1a 14 inch」(モデル RM395P/a8060S/128/2/AG-WUX/日)の仕様
プロセッサRyzen AI Max+ PRO 395 (16コア/32スレッド、最大5.1GHz、L2キャッシュ16MB/L3キャッシュ64MB、TDP 55W/cTDP 45~120W、NPU 最大50TOPS)
メモリ128GB LPDDR5x-8000(オンボード)
ストレージ2TB M.2 SSD (PCIe 4.0 x4 2280 NVMe)
OSWindows 11 Pro(24H2) / Copilot +PC対応
ディスプレイ14型1,920x1,200ドット、非光沢、最大輝度400cd/m2、sRGB 100%
グラフィックスRadeon 8060S(40コア)
ネットワークWi-Fi 7対応、Bluetooth 5.4、NFC
インターフェイス右側:USB 3.2 Gen 2、Thunderbolt 4、左側:HDMI、USB USB 3.2 Gen 2 Type-C、Thunderbolt 4、3.5mm音声入出力、500万画素Webカメラ(シャッターあり)、指紋センサー
バッテリ/駆動時間4セル リチウムイオンポリマーバッテリ(74.5Whr)/8.1時間
サイズ/重量312×215×9.2㎜、約1.57kg
価格73万9,200円

 プロセッサはZen 5アーキテクチャのRyzen AI Max+ PRO 395。16コア/32スレッド、クロックは最大5.1GHz。L2キャッシュ16MB/L3キャッシュ64MB。TDP 55W(cTDP 45~120W)、そして最大50TOPSのNPUを内包する。基本モバイル用SKUなのだが、本当にモバイル用?と思える構成になっている。

 メモリは速度を稼ぐ意味もあり、LPDDR5x-8000 128GBでオンボードで搭載。これは同プロセッサの最大値。ほかのモデルとしては16GB/32GB/64GBも用意されている。ストレージは2TB M.2 SSD (PCIe 4.0 x4 2280 NVMe)。

 OSはWindows 11 Pro。Copilot +PC対応だ。24H2だったのでこの範囲でWindows Updateを適用、評価した。なおモデル名の最後”日”は」Windowsの日本語版の意味。”英”の英語版も用意されている。

 グラフィックスはプロセッサ内蔵Radeon 8060S。40コアで外部出力用にHDMIとThunderbolt 4を装備している。

 パネルは14型1,920×1,200ドット。非光沢、最大輝度400cd/m2、sRGB 100%といった特徴を持つ。なお64GB/1TBまたは4TB、128GB/4TBモデルは、ディスプレイが14型2.8K OLEDタッチディスプレイ(光沢、最大解像度2,880×1,800ドット)となる。

 ネットワークはWi-Fi 7対応、Bluetooth 5.4、NFC。そのほかのインターフェイスは、USB 3.2 Gen 2、Thunderbolt 4 2基、HDMI出力、USB USB 3.2 Gen 2 Type-C、3.5mmジャック、500万画素Webカメラ(シャッターあり)、指紋センサー。

 4セルリチウムイオンポリマーバッテリ(74.5Whr)を内蔵し、最大駆動時間は8.1時間。サイズ312×215×9.2㎜、重量約1.57kg。

 価格は今回の構成128GB/2TBで73万9,200円。最下位の16GB/512GB/液晶パネルでも36万8,500円と、14型ノートPCとしてはかなりハイエンド志向と言える。参考までに最大構成の128GB/4TB/OLEDだと82万5,000円になる。

前面。パネル中央上にWebカメラ。写真から分かり辛いがスライド式のシャッターがある。縁はかなり狭い
背面。メタリックな艶消しダークグレイ。中央にHPのロゴ
左側面。HDMI、USB Type-C 2基(右側がThunderbolt 4、左側がUSB 3.2 Gen 2)、3.5mmジャック
右側面。ロックポート、USB 3.2 Gen 2、Thunderbolt 4。パネルの傾きはこれが最大
日本語キーボード。左右にスピーカー。電源ボタンに指紋センサー付き
キーピッチは実測で約19mm。仕様上は防滴機能付き、キーピッチが18.7×18.7mm、キーストロークが1.5~1.7mm
横から。HDMIの高さからも分かるように結構薄い
裏。手前左右と後ろに1本バー式のゴム足
付属のACアダプタのサイズ約138×65×28mm、重量428g、出力140W
重量は実測で1,561g
キーボードバックライトはOFF+2段階

 筐体は艶消しのメタリックなダークシルバー。なかなか高級感がありカッコいい。先日たまたま友人がRyzen AI 9 HX 375搭載の「OmniBook Ultra 14」を持っていたが、本機の方が筐体の質感、キーボードのクオリティなど数段上の感じだった。重量は実測で1,561g。モバイル用14型は1.2kg前後が多いので重い方となる。とは言え、これだけのスペックのものが持ち運べるなら、これはこれでありだろう。

 前面はパネル中央上にWebカメラ。写真から分かりにくいがスライド式のシャッターがある。縁はご覧のようにかなり狭い。左側面にHDMI、Thunderbolt 4、USB 3.2 Gen 2 Type-C、3.5mmジャック。右側面にロックポート、USB 3.2 Gen 2、Thunderbolt 4を配置。裏は手前左右と後ろに1本バー式のゴム足。

 付属のACアダプタはサイズ約138×65×28cm、重量428g、出力140W。ノートPC用で140Wはなかなか強烈だ。

 キーボードはOFF+2段階のキーボードバックライト付きJIS配列。仕様によるとキーピッチが18.7×18.7mm、キーストロークが1.5~1.7mm。キーストロークが少し深めなのだが、個人的には嫌いではない。電源ボタンは指紋センサー兼用。もちろんタッチパッドは大きく滑りも良く扱いやすい。

 ディスプレイは、OLED版もあるのだが、今回届いたのは液晶パネルモデル。1,920×1,200ドット/非光沢。業務用としてはOLEDの光沢よりも反射の少ないこちらの方が使いやすいかも知れない。明るさ、コントラスト、視野角、発色……全て良好。なかなか良いパネルが使われている。

 i1 Display Proを使い特性を測ったところ、最大輝度410cd/平方m。写真の鑑賞/編集で最適とされる標準の明るさ120cd/平方mは、輝度-6ステップで122cd/平方m。この状態で測定した。黒色輝度は0.092cd/平方。リニアリティは多少凸凹はあるものの結構良い。どちらも液晶パネルとしては優秀と言える。

測定結果1/白色点と黒色輝度
測定結果2/R・G・Bのリニアリティ

 VRAM容量はBIOSで設定できる。最小が512MB、最大96GB。デフォルト64GB。残念なのは最大112GBではないこと。この状態でもメインメモリに16GB確保でき、普通に使えるハズ。もしハードウェア的に対応可能であればBIOSアップデートで何とかして欲しいところ。この件、ほかのRyzen AI Max+ PRO 395でも同じのようだ。+16GBの差はLLMで結構効くと思う。

BIOS(起動時F10) > Advanced > Built-in Device Options > Video Memory Size。最小512MB、最大96GB。デフォルトは64GB

 カメラに関してはWeb会議程度であれば十分な画質だろうか。ただほかの部分が良いだけに、もう一歩画質が欲しい……と思ってしまうのは欲張りだろうか。

 ノイズに関してはベンチマークテストなどCPU/iGPUに結構負荷をかけてもほとんど聞こえなかった。ただ発熱はキーボードの後ろ側が結構熱を持つ。ただし、キーボード手前にまで熱が降りてこないため、使用上気になることはないだろう。

 サウンドは、キーボード左右にスピーカーがあり、上に向いている関係でこもらず抜けも良い。加えてパワーもあり好印象だ。

モバイル用プロセッサとは思えないCPU/iGPU性能!

 初期起動時、壁紙などの変更はなくWindows 11標準だが、後述するMyHPなどのアプリケーションがプリインストールされている。操作感は、スペックがスペックなだけに快適そのもの。下手なデスクトップPC顔負けだ。

 搭載されている2TB SSDは「SK hynix PC801 HFS002TEJ9X101N」。仕様によると、シーケンシャルリード7,000MB/s、シーケンシャルライト6,500MB/sと爆速。CrystalDiskMarkのスコアもほぼそのまま出ている。C:ドライブのみの1パーティションで約1.9TBが割り当てられ空き1.75TB。BitLockerで暗号化されている。

 Wi-Fiは「MediaTek Wi-Fi 7 MT7925」、BluetoothもMediaTek製。タスクマネージャーにはNPUの項目がある。

初期起動時のデスクトップ。壁紙などの変更はなくWindows 11標準だが、後述するMyHPなどのアプリケーションがプリインストールされている
デバイスマネージャー/主要なデバイス。2TB SSDは「SK hynix PC801 HFS002TEJ9X101N」。Wi-FiはMediaTek Wi-Fi 7 MT7925、BluetoothもMedia Tek製
ストレージのパーティション。C:ドライブのみの1パーティションで約1.9TBが割り当てられている。BitLockerで暗号化
タスクマネージャーにNPUの項目が増えている

 アプリケーションは、「MyHP」、「HP Companion」、「HP Documentation」、「HP Hardware Diagnostics Windows」、「HP Privacy Settings」、「HP Sure Click Secure Browser」、「HP System Information」、「HP Wolf Security」、「HPサポートアシスタント」など基本的に同社のツール系だ。セキュリティ関連が多い。

 なお、AMDのツールはいつもの「AMD Software Adrenalin Edition」ではなく、「AMD Software PRO Edition」が入っている。加えて「AMDチャット」もインストールでき、普通のチャットに加え画像も生成可能だ。

MyHP (1/2)
MyHP (2/2)
AMD Software PRO Edition (1/2)
AMD Software PRO Edition (2/2)
AMDチャット (1/2)
AMDチャット (2/2) 画像も生成できる

 ベンチマークテストは、「PCMark 10」、「PCMark 8」、「3DMark」、「Cinebenrh R23」、「CrystalDiskMark」、「PCMark 10/BATTERY/Modern Office」を使用した。ご覧のように、全体的にスコアは高い。iGPUが関係するテスト(特に3DMark)では、モバイル用プロセッサのiGPUとしては驚くスコアを叩き出している。

 PCMark 10/BATTERY/Modern Officeは10時間1分(電源モード/バランス、明るさ、バッテリモードなどはシステム標準)。仕様上8.1時間なので約2時間長く動作。このクラスで8時間超えれば十分ではないだろうか。

【表】ベンチマーク結果
PCMark 10 v2.2.2737
PCMark 10 Score7,129
Essentials9,021
App Start-up Score10,406
Video Conferencing Score8,649
Web Browsing Score8,159
Productivity8,374
Spreadsheets Score11,014
Writing Score6,367
Digital Content Creation13,014
Photo Editing Score15,995
Rendering and Visualization Score17,851
Video Editting Score7,721
3DMark v2.31.8385
Time Spy9,458
Fire Strike Ultra6,267
Fire Strike Extreme11,764
Fire Strike22,939
Sky Diver50,071
Cloud Gate64,692
Ice Storm Extreme205,201
Ice Storm215,450
Cinebenrh R23
CPU27,156(2位)
CPU(Single Core)1,949(1位)
CrystalDiskMark 8.0.5
[Read]
  SEQ    1MiB (Q=  8, T= 1):  7142.766 MB/s [   6811.9 IOPS] <  1172.59 us>
  SEQ    1MiB (Q=  1, T= 1):  4888.468 MB/s [   4662.0 IOPS] <   214.35 us>
  RND    4KiB (Q= 32, T= 1):   448.454 MB/s [ 109485.8 IOPS] <   282.97 us>
  RND    4KiB (Q=  1, T= 1):    68.018 MB/s [  16606.0 IOPS] <    60.09 us>

[Write]
  SEQ    1MiB (Q=  8, T= 1):  6593.597 MB/s [   6288.1 IOPS] <  1269.91 us>
  SEQ    1MiB (Q=  1, T= 1):  3443.277 MB/s [   3283.8 IOPS] <   304.28 us>
  RND    4KiB (Q= 32, T= 1):   557.776 MB/s [ 136175.8 IOPS] <   227.42 us>
  RND    4KiB (Q=  1, T= 1):   158.894 MB/s [  38792.5 IOPS] <    25.69 us>

 iGPUが強力なのでゲーム系のベンチマークテストも行なった。「Monster Hunter Wilds Benchmark」と、「FINAL FANTASY XV BENCHMARK」の2つを使用。結果は順に 14,857/87.06 FPS、8,817。iGPUとしてはかなり速く60FPSを軽く超えている。

Monster Hunter Wilds Benchmark。14,857 / 87.06 FPS
FINAL FANTASY XV BENCHMARK。8,817

 生成AI画像系は、AMD用にチューンされた生成AI画像アプリ、Amuseを使い、いつもの神里綾華ベンチマークを実行した。

 ただし、checkpointがAmuseプリセットしか使えないので、SD 1.5用のJuggernautとStable Diffusion (AMDGPU)を選択。ほかの設定などは可能な限り合わせている。後者は表記の通りAMD GPU用にチューンしたcheckpointだ。

Juggernaut。60.4秒
Stable Diffusion (AMDGPU)。39.5秒

 ベンチマークテストサイトにある結果と比較すると、Juggernaut(一般的なSD 1.5)でGeForce RTX 3050(8GB)、Stable Diffusion (AMDGPU)でGeForce RTX 3060(12GB)もしくはArc A770(16GB)相当。iGPUとしては速いが、と言ってGeForce RTX 4060やGeForce RTX 4070相当とは、さすがに行かないようだ。

 最後に「LM Studio」を使い、「cyberagent-DeepSeek-R1-Distill-Qwen-14B-Japanese-gguf Q4_K_M」と、「Qwen3-30B-A3B-GGUF Q3_K_L」を動かしたところ以下のような速度となった

・cyberagent-DeepSeek-R1-Distill-Qwen-14B-Japanese-gguf Q4_K_M
 Vulkan 18.03 tok/sec
 CPU/RAM 5.59 tok/sec
 GeForce RTX 3090(USB4接続) 59.30 tok/sec

・Qwen3-30B-A3B-GGUF Q3_K_L
 Vulkan 48.38 tok/sec
 CPU/RAM 13.50 tok/sec
 GeForce RTX 3090(USB4接続) 79.16 tok/sec

 CPU/RAMだとそれなりだが、Vulkanだと結構速い。とは言え、GeForce RTX 3090 (24GB)の敵ではない。

LM Studioを使いQwen3-30B-A3B-GGUF Q8_0を実行。Vulkan 39.84 tok/sec。RTX 3090(USB4接続)ではモデルサイズが32.48GBあるので動かず

 しかし、モデルサイズが大きい(32.48GB)「Qwen3-30B-A3B-GGUF Q8_0」だとVulkan 39.84 tok/sec。こちらはGeForce RTX 3090 (24GB)ではVRAMに収まりきらず動かなかった。LLMに関しては実用レベルかどうかはともかくとして、動く/動かないが結構重要だろう。

 この点はiGPUとは言え、VRAMを最大96GBにできる本機の優位な点と言えよう。NVIDIAで96GBのVRAMとなると「NVIDIA RTX PRO 6000 Blackwell Workstation Edition」の約163万円コースになる(笑)。


 以上のようにHP ZBook Ultra G1a 14 inchは、Ryzen AI Max+ PRO 395を搭載する14型ノートPCだ。特にエントリーレベル程度のdGPUパワーを持ち、加えてメモリ最大128GBのiGPUが魅力的。筐体やパネル、キーボード、サウンドのクオリティもなかなか良い。iGPUのパワーやメモリ最大128GBにグッときたユーザーに(予算があれば)是非使って欲しい1台と言えよう。